足底腱膜炎 ope
目次
1.1どこが痛くなるのか
1.2足底腱膜の解剖と病態
2. 原因3.セルフチェック
3.1症状
3.2診断
4.治療法4.0自然治癒するのか
4.1各種治療の紹介
4.1.1リハビリテーション
4.1.2ステロイド注射
5.再生医療5.1プロロセラピー
5.2体外衝撃波
5.3PRP療法
5.4各種再生医療の比較と選択のポイント
6.手術6.1手術の種類
6.1.1直視下手術
6.1.2関節鏡下手術
6.1.3超音波ガイド下経皮的手術
6.2各治療の比較と治療法選択のポイント
足底腱膜炎を手術で治す
足底腱膜炎は時間が経てば治るものとされ、病院では積極的に治療は行われてきませんでした。しかし最近では体外衝撃波などの再生医療に加えて、超音波エコーを用いた経皮的手術など新しい治療法が開発されています。
特に、難治性足底腱膜炎に対する体外衝撃波は保険適応であることもあり、多くの医療機関で施行されるようになりましたが、医療機関以外でも使用できる拡散型衝撃波と呼ばれる機器(厳密には衝撃波ではありません)で治療を受けている方もいたりと、やや混乱した医療状況です。このページでは手術に関することだけでなく、足底腱膜炎について、手術以外の治療法についても解説していきます。長引く痛みで日常生活や好きなスポーツができないなど、困っている方の治療選択の一助となれば幸いです。
また、当院で行なっている超音波ガイド下経皮的手術は、わずか5mm程度の皮膚切開で済む、低侵襲の日帰り手術です。長引く痛みでお困りの方は一度ご相談ください。
目次へ戻る
※担当医師の海外赴任に伴い、現在当院では日帰り手術をおこなっておりません。
エコーガイド下手術の適応がある場合は他の施設をご紹介しています。
そのほかの治療に関しては行なっておりますので、お困りの際はまずはご相談ください。
足底腱膜炎とは
【どこが痛くなるのか】
足の裏の足底腱膜が付着している踵の骨あたりが痛くなることが多いですが、付着部より少し離れた実質部の痛みの方もいます。【足底腱膜の解剖と病態】
足底腱膜が骨に付着する部分(腱付着部)に起こる微細な損傷やそれに伴う炎症が痛みを引き起こします。傷ついた組織の修復が上手く行われないと変性した組織が増殖し、痛みが慢性化する原因となります。また変性した組織では神経が不必要に発達することがあり症状をより強くすることもあります。前述のとおり、付着部から少し離れた実質部が傷んでいる方もいます。
目次へ戻る原因
腱付着部の加齢的変化に加えて、繰り返しの慢性的な負荷が損傷を引き起こします。ランニングや歩行時に足をつく衝撃や、足底腱膜が牽引されるストレスが関わっていると考えられています。そのほか扁平足などの足の形の問題や内在筋の筋力低下も原因となります。
目次へ戻るセルフチェック
【症状】
起床時に足をついた一歩目が痛い。長時間座っていて歩き始めの一歩目が痛い。初めのうちは少し歩いている間に痛みが和らいだりもしますが、悪化してくると歩いている時は常に痛むようになってきます。またランナーの方は走れなくなるなど運動のパフォーマンスにも影響が出ます。
【診断】
押した痛み(圧痛)が足底腱膜にあることと、超音波検査で同じ部位に変性した組織を確認して診断となります。MRIは炎症がある部分などを見ることはできますが、形を把握することがやや苦手な検査なので、腱が変性して肥厚しているかどうかを見るのには超音波検査が適しています。また診察室ですぐ確認できることから超音波検査が非常に有用です。レントゲンで骨のトゲがあると言われたことがあるかもしれませんが、骨のトゲと痛みに因果関係はないとされています。6ヶ月以上続く痛みの方は難治性足底腱膜炎の診断となり、体外衝撃波治療が保険適応となります。
治療法
自然治癒するのか
多くの方は発症から数ヶ月で落ち着くことが多く、当院の難治性疼痛外来でも2年を超えて症状が継続する方が受診することはほぼありません。長い目でみると治る疾患ではありますので、どの治療を選択するかはメリット・デメリットをしっかりと考える必要があると言えます。
各種治療の紹介
リハビリテーション
足部から下腿にかけてのセルフマッサージやストレッチは症状の緩和に有効です。また弱ってしまった足部の内在筋を鍛えることにより足底腱膜にかかる負担を減らします。ランナーの方などはクッション性のある靴を使用する、接地の際の衝撃が少ない走り方を身につけるなど、セルフケア以外のトレーニングも重要です。
ステロイド注射
腱付着部にステロイドを注射する治療は炎症反応を抑制することにより短期間で痛みを抑えてくれますが、長い目で見ると有効性はないとされています。治る方は注射を打たなくても治るし、治らない方は注射を打っても治らない(もしくは再発する)というイメージです。複数回の注射によって腱の断裂や足底のクッションの役割を果たしている脂肪組織の萎縮などが起きることがあり、一回有効だったからといって痛くなるたびにステロイド注射を行うのは控えた方が良いと言えます。週末にマラソン大会が控えているなど近い時期に明確な目的がある場合は行っても良いかもしれませんが、治すための治療とは考えない方が良いと思います。
目次へ戻る再生医療
プロロセラピー
プロロセラピーはステロイド注射とは反対に炎症反応を引き起こすことにより、組織の修復を促そうというコンセプトの注射です。原理的には体外衝撃波に似ていてブドウ糖の刺激や注射針が局所の細胞を壊すことにより、各種成長因子(組織の修復を促すタンパク質)の増加を促すとされています。主にアメリカで行われている治療法で、日本国内では認知度がまだ低く、行っているクリニックは多くありません。1-2週ごとに3回程度行います。注射の際に痛みを感じることはありますが、長く続くことは少なく、治療期間中の運動の制限は必要としません。体外衝撃波
腱付着部の変性した組織には神経が発達していることがありますが、この余分に発達した神経(自由神経終末)を壊したり、痛みを伝える物質(発痛物質)の産生を減少させることによって、早期の除痛効果を発揮します。当院では2週間ごとに3回から4回の照射を行っていますが、効果がある場合は2回目から3回目くらいで痛みが緩和することが多いです。また、各種成長因子(組織の修復を促すタンパク質)が局所で増加することで長期的には変性した組織が治癒に向かうとされています。照射中にいつも感じるような痛みを感じるのが特徴ですが、治療継続できないほどの強い痛みを感じる方は多くなく、照射後に痛みが続くこともまずありません。プロロセラピーと同様、治療期間中の運動の制限は必要としません。
PRP療法
血小板に含まれている各種成長因子を患部に直接注射することにより組織の再生を促す治療法になります。プロロセラピーや体外衝撃波は成長因子の産生を促しますが、PRPは集めてきた成長因子を直接患部に注射するというコンセプトです。使う血液はご自身のもので、採取した血液を遠心分離器にかけて、血小板の濃度を増やした血漿を抽出します。PRPはPlate Rich Plasma(多血小板血漿)の頭文字をとった名前です。注射の際に比較的強い痛みを伴い、数日程度痛みや腫れ、かゆみなどが続くこともあります。治療回数は1回です。治療期間中は運動の強度を下げる必要があり、近々大事な大会を控えているなど、シーズン中の治療には適していません。主にシーズンオフの時期に検討する治療と言えます。
各種再生医療の比較と選択のポイント
1)保存治療
発症間もない足底腱膜炎はまずリハビリなどの保存治療をしっかりと行うことが重要です。また場合や状況によっては注射治療を検討します。
2)難治性足底腱膜炎であれば体外衝撃波
リハビリなどを行なっても良くならない場合は体外衝撃波を検討します。6ヶ月以上経過していれば保険の適応になりますが、それ以前だと自費の治療になることもあり、金額が高額になってしまいます。また体外衝撃波は変性した組織に対して有効なので、痛みが出始めてすぐに使用することは有効性の観点からお勧めしていません。
ストレッチやマッサージなどのセルフケアをきちんと行うこと、運動量や強度など患部への負荷をコントロールすることは非常に大事です。その上で、体外衝撃波を行うことをお勧めしています。超音波ガイド下経皮的手術の出現により、自費で痛みの強いprpの有用性は低下してきており、体外衝撃波が有効でない場合には手術を検討してくことになります。
手術
各種保存治療を行っても痛みが引かない難治性のものは手術を検討することになります。いくつか手術の方法はありますが、手術による侵襲の大きさがかなり異なり、当院では侵襲の少ない、超音波ガイド下経皮的手術をお勧めしています。
手術の種類
手術には大きく分けて3つのタイプに分けることができます。
1) 直視下(ちょくしか)手術
2) 関節鏡下(かんせつきょうか)手術
3) 超音波ガイド下経皮的(かけいひてき)手術
直視下手術の歴史が一番古く、関節鏡の機械の進歩によって、関節鏡下手術が行われるようになりました。超音波エコー機器の進歩により、最近行われるようになったのが超音波ガイド下経皮的手術です。どの手術も変性した組織の切除や腱の切離を行うことには変わりはありません。患部を視認する方法の違いがそれぞれの術式の違いと言って良いと思います。一定の効果を期待できますが、保存治療やそれぞれの術式を比較した質の良い研究がないこと、何もしなくても長期的にみて痛みが和らぐことが分かっているため、手術は積極的に推奨されていないのが現状です。
直視下手術
患部を切開し直接視るので直視下手術と言います。3つの手術の中で一番大きく皮膚を切開するので、侵襲が一番大きくなります。患部をしっかり確認できることと、手術の際の技術的困難さが少なくなるため、変性した組織の切除を行いやすくなりますが、侵襲が大きくなりがちです。侵襲の大きい手術は術後の遺残性疼痛のリスクが上がることが知られており、新しい手術法の開発は、有効性を担保しながらも如何に侵襲を減らせるかを念頭において行われてきました。関節鏡下手術や、超音波ガイド下経皮的手術が進んだ現在ではやや古典的、最終手段といった位置付けになってくると思われます。多くの病院では手術前後数日の入院を必要とし、日帰りで行うことろは少ないです。
関節鏡下手術
先端にカメラがついた器具(関節鏡)を患部近くに挿入して患部を視るので関節鏡下手術と言います。直視下手術に比べて侵襲は少なくなりますが、変性組織の視認が難しいため、足底腱膜を切離しすぎてしまうと足趾の筋力低下が起こりますし、切離が不十分であれば痛みが残存するなど、技術的に難しい手術と言えます。また術前後数日間の入院が必要となるのは直視下手術と変わりません。
超音波ガイド下経皮的手術
患部をエコーで確認することにより、視野を確保するための皮膚切開が必要なくなりました。そのため、変性組織を切除したり腱を切離するためのデバイスを挿入する5mm程度の小さい切開を1ヶ所行うだけで手術が可能となります。腱付着部の正常組織と変性組織(病変部)を区別できる解像度の高い超音波エコー検査機器と、変性組織を破壊吸引する超音波吸引装置が短時間、低侵襲の手術を可能にしました。特に超音波吸引装置はアメリカで開発され、日本では2021年10月に医療機器の承認が行われたばかりの最新の機器になります。手術時間は30分程度で、局所麻酔で可能なため、全身の合併症が少なく、安全に日帰り手術を行うことが可能です。
各治療の比較と治療法選択のポイント
負担の少ない手術法から選択をしてくことがお勧めです。また負担が少ないとはいえ、手術により様々な負担が発生します。痛みが長く続いている、日常生活やスポーツを満足に行えないなどの現状の不満に対して、金銭的なコストや、合併症のリスク、治療のために割かなければいけない時間、生活や運動の制限などの負担をどこまで容認するかで手術を行うべきかどうかが決まってきます。手術以外の治療にも当てはまりますが、主治医と良く相談し、納得できる治療法を選んでいただければ幸いです。
目次へ戻る