テニス肘・ゴルフ肘 tennis-golf
テニス肘・ゴルフ肘は手術で治す
低侵襲・日帰り手術・手術以外の治療にも対応
テニス肘・ゴルフ肘は時間が経てば治るものとされ、病院では積極的に治療は行われてきませんでした。しかし最近ではPRP療法や体外衝撃波などの再生医療に加えて、超音波エコーを用いた経皮的手術など新しい治療法が開発されており、どのような治療を選択するか悩ましい状況になっているのが現状です。
このページでは手術に関することだけでなく、テニス肘・ゴルフ肘について、手術以外の治療法についても解説していきます。長引く痛みで日常生活や好きなスポーツができないなど、困っている方の治療選択の一助となれば幸いです。
また、当院で行なっている超音波ガイド下経皮的手術は、わずか5mm程度の皮膚切開で済む、低侵襲の日帰り手術です。
長引く痛みでお困りの方は一度ご相談ください。
※担当医師の海外赴任に伴い、現在当院では日帰り手術をおこなっておりません。
エコーガイド下手術の適応がある場合は他の施設をご紹介しています。
そのほかの治療に関しては行なっておりますので、お困りの際はまずはご相談ください。
テニス肘・ゴルフ肘とは
どこが痛くなるのか
テニス肘は正式には外側上顆炎といい、物を掴んだり手首(手関節)を使う動作をする際に肘の外側から前腕にかけて痛みが出現します。同様に肘の内側が痛くなるものを内側上顆炎といいます。
正式な病名
外側がテニス肘で内側がゴルフ肘と使い分けているサイトなどを見かけますが、テニスのフォアハンドで肘内側を傷めることもありますし、ゴルフで肘外側を傷めることもあり、厳密にそのように定義されているものではありません。さらにはテニスやゴルフだけでなくクライミングなどその他のスポーツや、普通の日常生活でも発症することがあります。
テニス肘・ゴルフ肘の解剖
解剖学的には肘の外側には指や手首を反らせる筋肉がついていて、肘の内側には指や手首を曲げる筋肉がついています。筋肉の端は腱になり、腱が骨に付着する部分(腱付着部)に起こる微細な損傷やそれに伴う炎症が痛みを引き起こします。また傷ついた組織の修復が上手く行われないと変性した組織が増殖し痛みが慢性化する原因となります。また変性した組織では神経が不必要に発達することがあり症状をより強くすることもあります。
原因
腱付着部の加齢的変化に加えて、繰り返しの慢性的な負荷が損傷を引き起こすと考えられています。外側上顆炎に関しては研究データが比較的豊富で、日本でも診療ガイドラインが作成されています。30代後半から50代に好発すること、物を持ち上げる動作、手を強く握る動作や、手の甲を上に向けて作業を行うなどの繰り返しが原因になることが分かっています。
セルフチェック
症状
①外側上顆炎
手の甲側を上にして物を持ち上げる、ドアノブをひねる、タオルを絞るなど、テニス(右利き)のバックハンド、ゴルフ(右利き)のスイングでは左肘外側、クライミングではピンチを握る動作などで痛みが誘発されます。
②内側上顆炎
手のひら側を上にして物を持ち上げる、テニス(右利き)のフォアハンド、ゴルフ(右利き)のスイングでは右肘内側、クライミングではホールドを持って引きつける時などに痛みが誘発されます。
診断
誘発テスト外側上顆炎 手関節伸展テスト 中指伸展テスト チェア(椅子)テスト
内側上顆炎 手関節屈曲テスト
治療法
自然治癒するのか
多くの方は発症から数ヶ月で落ち着くことが多く、当院の難治性疼痛外来でも2年を超えて症状が継続する方が受診することはほぼありません。長い目でみると治る疾患ではありますので、どの治療を選択するかはメリット・デメリットをしっかりと考える必要があると言えます。
各種治療の紹介
①リハビリテーション
②ステロイド注射
腱付着部にステロイドを注射する治療は炎症反応を抑制することにより短期間で痛みを抑えてくれますが、長い目で見ると有効性はないとされていてます。治る方は注射を打たなくても治るし、治らない方は注射を打っても治らない(もしくは再発する)というイメージです。複数回の注射によって腱の断裂などが起きることがあり、一回有効だったからといって痛くなるたびにステロイド注射を行うのは控えた方が良いと言えます。週末にゴルフのコンペやテニスの試合が控えているなど、近い時期に明確な目的がある場合は行っても良いかもしれませんが、治すための治療とは考えない方が良いと思います。また競技種目や競技レベルによってはドーピング検査に引っかかってしまうこともあり、安易な使用は控えるべきです。
再生医療
プロロセラピー
プロロセラピーはステロイド注射とは反対に炎症反応を引き起こすことにより、組織の修復を促そうというコンセプトの注射です。原理的には体外衝撃波に似ていてブドウ糖の刺激や注射針が局所の細胞を壊すことにより、各種成長因子(組織の修復を促すタンパク質)の増加を促すとされています。主にアメリカで行われている治療法で、日本国内では認知度がまだ低く、行っているクリニックは多くありません。1-2週ごとに3回程度行います。注射の際に痛みを感じることはありますが、長く続くことは少なく、治療期間中の運動の制限は必要としません。
体外衝撃波
腱付着部の変性した組織には神経が発達していることがありますが、この余分に発達した神経(自由神経終末)を壊したり、痛みを伝える物質(発痛物質)の産生を減少させることによって、早期の除痛効果を発揮します。当院では2週間ごとに3回から4回の照射を行っていますが、効果がある場合は2回目から3回目くらいで痛みが緩和することが多いです。また、各種成長因子(組織の修復を促すタンパク質)が局所で増加することで長期的には変性した組織が治癒に向かうとされています。照射中にいつも感じるような痛みを感じるのが特徴ですが、治療継続できないほどの強い痛みを感じる方は多くなく、照射後に痛みが続くこともまずありません。プロロセラピーと同様、治療期間中の運動の制限は必要としません。
PRP療法
血小板に含まれている各種成長因子を患部に直接注射することにより組織の再生を促す治療法になります。プロロセラピーや体外衝撃波は成長因子の産生を促しますが、PRPは集めてきた成長因子を直接患部に注射するというコンセプトです。使う血液はご自身のもので、採取した血液を遠心分離器にかけて、血小板の濃度を増やした血漿を抽出します。PRPはPlate Rich Plasma(多血小板血漿)の頭文字をとった名前です。注射の際に比較的強い痛みを伴い、数日程度痛みや腫れ、かゆみなどが続くこともあります。治療は2-4週ごとに2-3回程度行います。治療期間中は運動の強度を下げる必要があり、近々大事な大会を控えているなど、シーズン中の治療には適していません。主にシーズンオフの時期に検討する治療と言えます。
各種再生医療の比較と選択のポイント
体外衝撃波やPRP療法は現在日本では保険適応になっておりません。
有効性を証明できる質の高い研究論文が現時点で、まだ多くはないということですが、体外衝撃波やPRP療法は海外では研究も進んできています。治療効果が期待できる治療法ではありますが、自費で高額になってしまうこともあり
1)スタンダードな保存治療もしっかりと
2)負担の少ない治療から選択。ステロイド注射は慎重に
3)シーズン中、シーズンオフなど時期で治療を使い分ける
このような観点から治療を選択していくと良いのではないでしょうか。
ストレッチやマッサージなどのセルフケアをきちんと行うこと、運動量や強度など患部への負荷をコントロールすることは非常に大事です。その上で、体外衝撃波やPRP療法を状況に合わせて選択することをお勧めしています。また負担が少ないということは、金銭的な負担だけではなく、副作用や痛みなど身体へ与える影響、生活や運動の制限など、様々なことを考慮する必要があります。
特にステロイド注射はドーピング検査で陽性になる可能性もあり、安易な使用は控えるべきです。
手術
各種保存治療を行っても痛みが引かない難治性のものは手術を検討することになります。いくつか手術の方法はありますが、どの手術も確実に良くなる訳ではないのが悩むところであり、再生医療の考え方と同様、手術行うかどうか、どの手術を行うかは慎重に考えなければいけません。
①直視下手術
患部を切開し直接視るので直視下手術と言います。
3つの手術の中で一番大きく皮膚を切開するので、侵襲が一番大きくなります。
患部をしっかり確認できることと、手術の際の技術的困難さが少なくなるため、変性した組織の切除を行いやすくなりますが、侵襲が大きくなりがちです。侵襲の大きい手術は術後の遺残性疼痛のリスクが上がることが知られており、新しい手術法の開発は、有効性を担保しながらも如何に侵襲を減らせるかを念頭において行われてきました。
関節鏡下手術や、超音波ガイド下経皮的手術が進んだ現在ではやや古典的、最終手段といった位置付けになってくると思われます。多くの病院では手術前後数日の入院を必要とし、日帰りで行うことろは少ないです。
②関節鏡下手術
先端にカメラがついた器具(関節鏡)を患部近くに挿入して患部を視るので関節鏡下手術と言います。
直視下手術に比べて侵襲は少なくなると言われていますが、視野が狭くなることや技術的な困難さから、手術時間が長くなったり、術後の腫脹や痛みが強くなることがあるため、一概に侵襲の少ない手術と言い切れるかは難しいところです。また術前後数日間の入院が必要となるのは同じです。
③超音波ガイド下経皮的手術
患部をエコーで確認することにより、視野を確保するための皮膚切開が必要なくなりました。
そのため、変性組織を切除したり腱を切離するためのデバイスを挿入する5mm程度の小さい切開を1ヶ所行うだけで手術が可能となります。腱付着部の正常組織と変性組織(病変部)を区別できる解像度の高い超音波エコー検査機器と、変性組織を破壊吸引する超音波吸引装置が短時間、低侵襲の手術を可能にしました。
特に超音波吸引装置はアメリカで開発され、日本では2021年10月に医療機器の承認が行われたばかりの最新の機器になります。
手術時間は30分程度で、局所麻酔で可能なため、全身の合併症が少なく、安全に日帰り手術を行うことが可能です。
各治療の比較と治療法選択のポイント
再生医療と同様、負担の少ない手術法から選択をしてくことがお勧めです。
痛みが長く続いている、日常生活やスポーツを満足に行えないなどの現状の不満に対して、金銭的なコストや、合併症のリスク、治療のために割かなければいけない時間などの負担をどこまで容認するかで手術を行うべきかどうかが決まってきます。
手術以外の治療にも当てはまりますが、主治医と良く相談し、納得できる治療法を選んでいただければ幸いです。